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東京高等裁判所 平成12年(行ケ)49号 判決 2000年7月18日

原告

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁護士

岩出誠

外山勝浩

中村博

村林俊行

小林昌弘

被告

特許庁長官【B】

指定代理人

【C】

【D】

【E】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

特許庁が平成10年審判第14099号事件について平成12年1月5日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、商品区分第18類の「皮革、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、かばん金具、がま口口金、傘、ステッキ、つえ、つえ金具、つえの柄、乗馬用具、愛玩動物用被服類」を指定商品とし、「HOLLYWOOD POLO CLUB」の文字を横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)について、平成9年4月14日に商標登録出願(平成9年商標登録願第105334号)をしたが、平成10年8月6日に拒絶査定を受けたので、同年9月7日に拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、同請求を平成10年審判第14099号事件として審理した結果、平成12年1月5日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月19日ないし21日に原告に送達された。

2  審決の理由

別紙審決書の理由の写しのとおり、本願商標をその指定商品に使用する場合には、これに接する取引者・需要者は、【F】又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあるから、本願商標は商標法4条1項15号に該当すると認定判断した。

第3原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由1(本願商標)、2(原査定の拒絶の理由)は認める。同3(当審の判断)は、審決摘示に係る書籍等に審決摘示のような記載があること、及び、審決摘示に係る東京高等裁判所の判決に審決摘示のような事実が認定されていることを認め、その余を争う。

審決は、出所の混同のおそれについての認定、判断を誤ったものであって、この誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。

1  「POLO」の語について

(1)  「POLO(ポロ)」は一般用語である。

すなわち、「POLO(ポロ)」、は日本ではポロシャツの略称である。

また、「POLO(ポロ)」は、スポーツ名である。ポロ競技は、我が国でも、英国皇太子に関する報道を含めて、多くのマスコミが取り上げており、また、アメリカ映画「プリティー・ウーマン」(1990年公開)のポロ・シーンは有名である。日本国内の辞書・事典160件余、海外の辞書・事典250件余には、「POLO」はスポーツ名としてしか記載されておらず、ラルフ・ロ―レンとの関係の記載はない。

さらに、「POLO」は、特にヨーロッパでは、イタリアの探検家マルコポーロの略称として認識されており、ヨーロッパその他の地域の外国では、フォルクスワーゲン社の自動車の名前として有名でもある。

(2)  被告は、「POLO、」「Polo」、「ポロ」の標章は、遅くとも昭和59年ころまでには、我が国において取引者・需要者の間に広く認識されるに至っていたと主張する。しかし、【F】のデザインに係る商品のうちの主力である、平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令の商品区分第17類(以下「旧第17類」という。)についての「POLO」の登録商標は、昭和55年に他人が登録しており、その商標の現在の権利者は、ポロ・ビーシーエス株式会社であって、【F】でも同人とつながりのある者でもない。

2  「HOLLYWOOD POLO CLUB」が実在のポロクラブであることについて

「HOLLYWOOD POLO CLUB」は、米国に実在するポロクラブであり、全米ポロ協会の会員であって、世界的に有名である。

原告は、同クラブと契約して、スポーツイメージのライセンス商品の展開を行うことを考え、本願商標の登録出願をしたものであって、同クラブから本願商標の登録出願の同意を得ている。

3  ラルフ・ロ―レン以外の「POLO」ブランドについて

我が国内では、ラルフ・ローレン以外にも、30種類の「POLO」ブランドがあり、これらのための市場が確立されている。

「POLO」の商標権者であるポロ・ビーシーエス株式会社は、「米国ポロ・ロ―レン社とは、契約により友好関係にあります。」と広告しており、また、「ビバリーヒルズポロクラブ」ブランドも、「自分たちのブランドは、ラルフ・ロ―レンとの共存関係を維持していくことが確認されている。」と宣伝している。これは、【F】自身が、自己の権利を放棄し、他の「POLO」ブランドの存在は、何ら自己の営業活動に実害がないと表明していることにほかならない。

4  東京高等裁判所平成12年1月27日判決(平成11年(行ケ)第253号。以下「別件判決」という。)について

別件判決は、商標「PALM SPRINGS POLO CLUB」について、特許庁の拒絶査定を維持した審決を取り消した。この判決の判示を本件に当てはめると、以下のようになり、出所の混同のおそれが生ずることはないという結論に至る。

(1)  「POLO」(ポロ)がポロ競技を意味することは、我が国においても広く知られているところである。したがって、結合商標中に「POLO」(ポロ)が含まれている場合、その商標からラルフ・ローレンに係る商標を連想するか否かは、ラルフ・ローレンに係る商標の強い識別力等を前提にして、個別具体的に判断するほかはない。

(2)  「HOLLYWOOD」は、映画の都として誰でも知っており、日本でも有名な地区である。

(3)  本願商標は、その指定商品の取引者・需要者がこれに接した場合、ごく自然に、「HOLLYWOOD」にある「ポロ競技のクラブ」を認識するものである。本願商標から、「HOLLYWOOD」にある「ラルフ・ローレンに係るポロ製品の愛好者のクラブ」との観念が生ずるとか、「POLO」の部分のみが注目され、直ちにラルフ・ローレンに係る商標が連想されるとかはいえない。

しかも、「PALM SPRINGS POLO CLUB」が実在しないのに対して、「HOLLYWOOD POLO CLUB」は、実在のクラブであり、世界的に有名であることからすれば、このことは、「PALM SPRINGS POLO CLUB」と比べて、本願商標の方によりよく当てはまることになる。

(4) 本願商標は、「HOLLYWOOD」にある「ポロ競技のクラブ」と認識されるものである以上、全体の称呼等が長いからといって、「HOLLYWOOD」の部分が生産地、販売地のように除かれ、「POLO」ないし「POLO CLUB」の文字のみが注目されるということにはならないのである。

第4被告の反論の要点

1  「POLO」の語について

(1)  ポロシャツは、「ポロ」と略称されずに、「ポロ・シャツ」と称される。仮に、「ポロ」(POLO)の語がポロシャツの略称であるということができるとしても、ポロシャツ以外の本願商標の指定商品についてこれが用いられることはないから、上記略称であることを根拠とする議論は、これらのものには当てはまらない。

ポロ競技は、我が国においては、その愛好者は極めて少なく、なじみの薄いスポーツである。一方、「小学館ランダムハウス英和大辞典」(株式会社小学館1998年1月10日発行、乙第1号証)には、「Polo」の語の意味として、「商標 ポロ:米国の【F】デザインによるバッグなどの革製品」、「ポロ→Polo by 【F】」の記載がある。

(2)  本願商標の指定商品、「かばん類袋物、携帯用化粧道具入れ」等は、ファッション(装身に関する流行)関連の商品ということができる。

被服を始め「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等のファッション関連の商品分野において、【F】のデザインに係る商品には、「Polo」と「by 【F】」の文字によって構成される商標、あるいは、馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形によって構成される商標、さらには、これらが一体となったもの(以下、これらのうちのそれぞれも、これらが一体となったものも、いずれも「ラルフ標章」という。)のいずれかが用いられてきている。我が国では、ラルフ標章を総称して単に「POLO」、「Polo」、「ポロ」と略称しており、この「POLO」、「Polo」、「ポロ」の標章は、遅くとも昭和59年ころまでには、我が国において取引者・需要者の間に広く認識され、その認識は現在においても継続している。

このように、「POLO(ポロ)」は、被服を始め「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等のファッション関連の商品分野において、【F】のデザインに係る被服等について使用される標章を総称するものとして、以前から、取引者・需要者に広く認識されてきたものである。このような状況の下で、我が国においては、「Polo」を始め、ラルフ標章を真似た偽物を、「【F】のデザインに係る商品」などと触れ込んで販売している事実もある。

これに対して、ポロ競技は、我が国では知名度は低く、愛好者も極めて少ない、なじみの薄いスポーツである。

これらのことを前提にした場合、被服を始め「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等のファッション関連商品において、「Polo」、「ポロ」などの文字が使用された場合には、これに接する取引者・需要者は、スポーツ競技の名称等を表したと理解するのではなく、【F】のデザインに係る商品であると認識することになるというべきである。

2  「HOLLYWOOD POLO CLUB」が実在のクラブであることについて

原告は、本願商標を我が国において、「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等のファッション関連商品の商標として使用しようとしているのであるから、本願商標の登録要件については、その指定商品「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等のファッション関連商品に関する取引の実情に基づいて、それらの取引者・需要者の認識を基準として判断すべきである。

この場合、「HOLLYWOOD POLO CLUB」は、我が国においてクラブ名として知られている事実はないから、その名のクラブが実在するか否かは、本願商標について出所の混同が生ずるおそれがあるか否かについての判断においては、何ら関係がない事情である。しかも、本願商標は、指定商品が、「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等であって、「ポロ競技施設の提供」に係る役務に使用するものではないから、球技としての「POLO」の観点のみからみるべきではない。

これに対して、【F】は、アメリカを代表するデザイナーとしての地位を確立しており、我が国の服飾業界においても広く知られている。

本願商標の構成中の「HOLLYWOOD」の文字は、映画の都としてよく知られているだけではなく、ファッション用語として、例えば「Hollywood model」(戦後、ハリウッドの映画スターが着て流行した紳士服の型)、「Hollywood cinema style」(ハリウッド映画全盛期に見られた、映画や、映画スターの衣装にインスピレーションを得たファッション)、「Hollywood model pants」(ズボンの一種)、「Hollywood roll collar」(ロング・ポイント・カラーの一種)等のファッション用語により、ファッションに深く関わっていて、ファッション関連の商品について、ハリウッドの都市名又はハリウッドに関わるファッションを想起させる語である。そうすると、本願商標の指定商品について、「HOLLYWOOD」の文字は、自他商品の識別力が全くないといえるほど弱いものである。

そうすると、本願商標については、一層「POLO」の部分が注目されて、【F】のデザインを表示するものとして著名な標章の総称である「Polo(ポロ)」が連想・想起されることになるのである。

3  ラルフ・ロ―レン以外の「POLO」ブランドについて

仮に、原告が挙げる「POLO」、「Polo」の文字を含む商標が、原告主張のとおり市場に定着しているとしても、それらの商標の付された商品を購入している需要者が、その商標を、【F】とは関係のない者の業務に係る商品を示すものとして認識している、との事実の立証はない。

また、「株式会社博報堂による『ポロ』ブランド調査1999年5月」(乙第22号証)によれば、【F】の業務に係る商品の商標と、それとは無関係の「POLO」を含む商標とを別個のものとして識別している者の多くが、後者の商標を【F】と何らかの関係のある者の商標、すなわち、兄弟ブランド・ファミリーブランドと考えていることが認められる。

これらをあわせ考えるときは、ラルフ・ローレン及びその関連会社以外の者が「POLO」の文字を含む商標を本願商標の指定商品に使用した場合、取引者・需要者をしてラルフ・ローレン及びその関連会社の取扱いに係る商品との間に、出所の混同を生じさせるおそれがあると認められるのである。

4  別件判決について

別件判決は、事実認定に誤りがあり、経験則に反し、商標法4条1項15号の解釈を誤ったものであるから、本件について参考にされるべきではない。本件と同種の事案については、東京高等裁判所平成11年12月16日判決(平成11年(行ケ)第250号。商標「The Polo Cup Challenge」)、同裁判所同日判決(平成11年(行ケ)第251号。商標「Polo Team」)、同裁判所同日判決(平成11年(行ケ)第290号。商標「ROYAL PRINCE POLO CLUB」)、同裁判所同月21日判決(平成11年(行ケ)第289号。商標「ROYAL POLO SPORTS CLUB」)を始め、圧倒的多数の判決において、出所の混同のおそれがあるとされている。本件についてはこれらの判決を参考とすべきである。

第5当裁判所の判断

1  本願商標の商標登録出願時における商品の出所の混同のおそれについて

(1)  乙第8ないし第17号証、第18号証の1、2、第19号証の1ないし3によれば、次の事実が認められる。

【F】は、1939年(昭和14年)生まれのアメリカの服飾等のデザイナーである。同人は、1970年、73年の2回にわたりアメリカのファッション界では最も権威があるとされるコティ賞を受賞し、1974年には映画「華麗なるギャツビー」の男性衣装を担当するなどして、世界的に知られるようになった。ラルフ標章(そのうちの「馬に乗ったポロ競技のプレーヤー図形」は、馬上の競技者が、先端が小さなT字状になった棒のような物を持っている図形である。)は、【F】のデザインに係る商品に使用されている。我が国においては、日本での【F】のデザインに係る商品の輸入・製造・販売のライセンス(許諾)を得ていた西武百貨店(ただし、眼鏡、ネクタイのライセンスは、別の会社が有していた。)の昭和62年におけるポロ・ラルフローレンブランドの小売販売高は約330億円であり、平成元年ころ及び平成5年ころには、第三者がラルフ標章ないしこれに酷似した標章を付した偽ブランド商品を販売して摘発されるという事件が発生するほど、ラルフ標章は顧客吸引力を有していた。本願商標の商標登録出願前から、各種雑誌等において、【F】のデザインに係る紳士服、婦人服、眼鏡を始めとする商品が一流ブランドないし流行ブランドとして、「ポロ」、「POLO」、「Polo」のブランド名のもとに紹介され、一般大衆を読者とする新聞でも、平成元年5月19日付け朝日新聞夕刊(乙第19号証の1)に「『ポロ』の偽を大量販売 警視庁、通信販売会社を摘発・・・『Polo(ポロ)』の商標で知られるラルフローレンブランド・・・米国の『ザ・ローレン・カンパニー』社の商標・デザインで西武百貨店が日本での独占製造販売権を持っている『Polo』の商標と、乗馬の人がポロ競技をしているマーク」、平成2年11月27日付け朝日新聞東京地方版/栃木 栃木版(乙第18号証の1)に「プレゼント・・・ポロ・・・などの輸入ブランドに人気があるという。女性から男性へは、ポロのセーター(1万4000円)」、平成3年12月5日付け朝日新聞大阪地方版/京都 京都版(乙第18号証の2)に「ポロの靴下 ブランド世代・・・足元は、申し合わせたようにラルフロ―レンのポロのマーク」、平成4年9月23日付け読売新聞東京本社版朝刊(乙第19号証の2)に「アメリカの人気ブランド『ポロ』・・・のロゴ『ポロ・バイ・ラルフ・ロ―レン』」、平成5年10月13日付け読売新聞大阪本社版朝刊(乙第19号証の3)に「偽『ポロ』眼鏡枠を摘発・・・ポロ競技のマークで知られる米国のファッションブランド『POLO(ポロ)』の製品に見せかけた眼鏡枠」という各記事が掲載されているように、ラルフ標章は「『ポロ』(『POLO』ないし『Polo』)の商標」の名で知られ、これを付した商品もブランドとして「ポロ」「(POLO」ないし「Polo」)と呼ばれていた。

以上の事実によれば、本願商標の商標登録出願時までには、ラルフ標章は、「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標などと呼ばれ、これを付した商品もブランドとして「ポロ」「(POLO」ないし「Polo」)と呼ばれて、いずれも紳士服、婦人服、眼鏡等のファッション関連商品について【F】のデザインに係る商品に付される商標ないしそのブランドとして著名であったことが認められる。

(2)  乙第6号証(「’98ファッションビジネス入門読本」(株式会社チャネラー平成10年4月1日発行)、「第7号証(講談社国語辞典」(株式会社講談社昭和42年2月15日発行)によれば、本願商標の指定商品の「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等は、ファッション関連商品であるものと認められる。そうすると、本願商標の指定商品の「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等と、「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標ないし「ポロ」「(POLO」ないし「Polo」)ブランドと呼ばれるものが、【F】のデザインに係る商品に付される商標ないしそのブランドとして著名であった、紳士服、婦人服、眼鏡等のファッション関連商品とは、商品の関連性が極めて高いものというべきである。

(3)  一般に、簡易、迅速を尊ぶ取引の実際においては、商標は、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどにまで不可分的に結合していない限り、常に必ずその構成部分全体の名称によつて称呼、観念されるというわけではなく、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、その結果、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである(最高裁判所第1小法廷昭和38年12月5日判決・民集17巻12号1621頁参照)。

また、本願商標の指定商品「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等のファッション関連商品の主たる需要者は、老人から若者までを含む一般大衆であって、商品「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等に係る商標やブランドについて、詳しくない者や中途半端な知識しか持たない者も多数含まれている。そして、このような需要者が購入する際は、恒常的な取引やアフターサービスがあることを前提にメーカー名、その信用などを検討して購入するとは限らず、そのような検討もなくいきなり小売店の店頭に赴いたり、ときには通りすがりにバーゲンの表示や呼び声につられて立ち寄ったりして、短い時間で購入商品を決定することも少なくないものである。(以上の事実は、当裁判所に顕著である。)

したがって、本願商標についての混同のおそれの判断に当たっては、以上のような経験則、及び取引の実情における需要者の注意力を考慮して判断すべきである。

(4) 本願商標は、17文字からなり、これより生ずる「ハリウッドポロクラブ」の称呼は促音を含む10音より構成されているから、その外観、称呼とも、一つの名称のものとしては、冗長というべきである。そして、「HOLLYWOOD」は、地名ないし場所名として、その後に続く「POLO」以下の語を修飾する語であり、「POLOCLUB」は、「ポロの同好の士の団体」というような意味合いであるから、本願商標において「POLO」の文字は重要な意味を持つ言葉と認識されるものと認められる。ところが、本件全証拠によっても、「HOLLYWOOD POLO CLUB」との文字が、全体として特定の熟語や団体名称を表すものとして我が国の一般の取引者・需要者によく知られているものとは認められない。

このように、本願商標の文字相互の結びつきは、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどまでに不可分的に結合しているものとは認めることのできないものである。

(5)  そうすると、本願商標がその指定商品のうち、「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等のファッション関連商品に使用された場合には、これに接した取引者・需要者は、その「POLO」の文字部分に着目して、ファッション関連商品について著名な「ポロ」「(POLO」ないし「Polo」)の商標と呼ばれるラルフ標章や、「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)と呼ばれるブランド名を連想し、【F】又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。

この点について出所の混同の発生する具体的な例を挙げれば、本願商標は、「POLO」の文字を重要な要素として含んでいるのであるから、これを「HOLLYWOOD POLO CLUB」、「ハリウッドポロクラブ」という冗長であって一般に知られていない名称で称呼、観念するのではなく、簡略に「ポロ」の商標と称呼、観念して取引することが考えられる。このようにして取引したとしても、決して不自然ということはできない。まして、「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)、の商標と呼ばれるラルフ標章や「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)ブランドが著名であり、強い顧客吸引力を有していることからすれば、【F】と関係のある「ポロ」の商標ないし「ポロ」ブランドであることには大きな価値があるから、そのような称呼、観念は、より発生しやすいところである。そして、取引者、特に販売者が、本願商標を「ポロ」の商標と呼んだとき(前示のとおり、このこと自体を不自然ということはできない。)、前記取引の実情における需要者の注意力を考慮すれば、需要者は、本願商標の「POLO」の文字部分に着目して、ラルフ・ロ―レンに係る著名な「ポロ」「(POLO」ないし「Polo」)の商標ないし「ポロ」ブランドであると誤解し、あるいは、ラルフ・ロ―レンに係る著名な「ポロ」の商標とは全体の構成が異なることに気付いたとしても、同じ「ポロ」の一種であって兄弟ブランドないしファミリーブランドであると誤解して、その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。

もとより、上記は、原告がそのような方法で出所の混同を発生させることを意図して本願商標の登録出願をしたという趣旨ではない。しかし、商標がいったん登録された場合には、自由に譲渡されたり使用権が設定されたりし得るものであるから、出所の混同のおそれは、出願人の出願の意図とは関係なく、取引の実情に基づき客観的に判断せざるを得ないのである。

2  審決時における商品の出所の混同のおそれについて

乙第19号証の4、5及び弁論の全趣旨によれば、本願商標の商標登録出願後審決時にかけても、朝日新聞、日経新聞に、「偽ブランドの販売で元社長に有罪判決・・・米国ブランド『ポロ』などのマークが入った偽物のセーターやポロシャツ」、「ラルフロ―レン偽物衣類を販売・・・「ポロ」ブランドの偽物セーター」との記事が掲載されていることにも示されているとおり、「ポロ」「(POLO」ないし「Polo」)の商標などと呼ばれるラルフ標章、及び、そのブランドである「ポロ」「(POLO」ないし「Polo」)ブランドの著名性は継続しており、また、ラルフ標章の顧客吸引力に着目して偽「ポロ」ブランド商品を販売する者も絶えなかったことが認められる。

そして、本願商標の商標登録時から審決時までの間に、前記1の認定に係る事情に変化があったものと認めるに足りる証拠はないから、審決時においても、前記1の認定に係る混同のおそれは、なお継続していたものと認められる。

3  原告の主張について

(1)  原告は、①「POLO(ポロ)」は、日本ではポロシャツの略称である、②日本国内の辞書・事典160件余、海外の辞書・事典250件余には、「POLO」はスポーツ名としてしか記載されておらず、ラルフ・ロ―レンとの関係の記載はない、③「POLO」は、特にヨーロッパでは、イタリアの探検家マルコポーロの略称として認識されている、④「POLO」は、ヨーロッパその他の地域の外国では、フォルクスワーゲン社の自動車の名前として有名であると主張する。

しかし、原告の挙げる上記①ないし④は、いずれも、前記1の判断の妨げとはなり得ない。

ア ①については、本願商標の指定商品には、ポロシャツが含まれないから、本願商標の「POLO」がポロシャツのことであると理解されることはあり得ないところである。

イ ②について

本願商標の登録出願時までには、ラルフ標章は、「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標などと呼ばれ、それの付された商品もブランドとして「ポロ」「(POLO」ないし「Polo」)と呼ばれて、いずれも紳士服、婦人服、眼鏡等のファッション関連商品について【F】のデザインに係る商品に付される商標ないしそのブランドとして著名であったことは前示のとおりである。

一方、乙第2ないし第5号証によれば、ポロ競技は、我が国では、平成10年ころでも競技者がわずか約30人という程度のものであって、「スポーツ用語」(株式会社教育社1992年11月25日発行)、「ニュースポーツ百科」(株式会社大修館書店1995年9月20日発行)、「NEWCOLOR SPORTS 1995」(一橋出版株式会社1995年発行)にも取り上げられておらず、関心の薄いスポーツであったことが認められる。

この点に関して、原告は、日本でも、英国皇太子に関する報道を含めて、多くのマスコミが取り上げており、また、アメリカ映画「プリティー・ウーマン」(1990年公開)のポロ・シーンは有名であると主張する。しかし、我が国において、多くのマスコミが、スポーツとしてのポロ競技を取り上げて報道していることを認めるに足りる証拠はない。甲第28号証によっても、「THE JAL CUP」が日本で放映されたことを認めることはできない。また、仮にこれが日本で放映されたとしても、ポロ競技は、これと上記「プリティー・ウーマン」のポロ・シーン等として時折紹介された程度であることが認められるにすぎない。そして、我が国において、テレビ・ラジオや新聞・雑誌において、ポロ競技の試合結果が時々報道されるとか、ポロの観戦に関心のあるファンがある程度はいるとかという事実を認めるに足りる証拠もない。したがって、原告の主張は、ポロ競技が我が国において関心の薄いスポーツであるとの前記認定を左右するものではない。

そうである以上、本願商標の指定商品である、「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等のファッション関連商品との関係においては、「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)とは、前記ラルフ・ローレンと関係のある「ポロ」「(POLO」ないし「Polo」)の商標ないし「ポロ」ブランドを指すものであると理解されることが多いのは、当然というべきである。

ウ ③については、我が国において、「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)がマルコ・ポーロの略称として著名であると認めるに足りる証拠はない。のみならず、我が国において、マルコ・ポーロが、本願商標の指定商品である、「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等と関係があると認識されていることを認めるに足りる証拠もない。そうである以上、本願商標の指定商品である、「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等の関係においては、「ポロ」「(POLO」ないし「Polo」)が、マルコ・ポーロを指すものと理解されるものとは認められないというほかはない。

エ ④については、本件全証拠によっても、本願商標の指定商品である、「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等について、フォルクスワーゲン社ないし同社の自動車が関係を有するものとして知られているとは認められないから、「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等との関係では、「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)が、フォルクスワーゲン社の自動車と関係のあるものと理解されるものとは認められない。

(2)  原告は、旧第17類についての「POLO」の登録商標は、昭和55年に他人が登録しており、その商標の現在の権利者は、ポロ・ビーシーエス株式会社であると主張する。

しかし、ラルフ標章は、「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標などと呼ばれ、それが付された商品は、ブランドとして「ポロ」「(POLO」ないし「Polo」)と呼ばれて、いずれも紳士服、婦人服、眼鏡等のファッション関連商品について【F】のデザインに係る商品に付される商標ないしそのブランドとして著名であったことは前示のとおりである。そして、旧17類についての商標「POLO」の商標権者が誰であったかとは関係なく、取引者・需要者が、ラルフ標章及びそれが付された商品のブランドを上記のように呼んでいる以上、本願商標の出所の混同のおそれを判断するに当たっては、上記事実を前提として判断すべきであることは、当然である。

(3)  原告は、「HOLLYWOOD POLO CLUB」は、米国に実在するポロクラブであり、全米ポロ協会の会員であって、世界的に有名であると主張する。

しかし、本件全証拠によっても、「HOLLYWOOD POLO CLUB」というポロクラブが、我が国においてよく知られていると認めることはできない。結局のところ、「HOLLYWOOD POLO CLUB」との文字が、全体として特定の熟語や団体名称を表すものとして我が国の一般の取引者・需要者によく知られているものと認めることができないことは、前認定のとおりである。

そして、我が国の一般の取引者・需要者によく知られているものではない以上、「HOLLYWOOD POLO CLUB」が米国に実在し、全米ポロ協会の会員であるとしても、そのことは、我が国における本願商標についての出所の混同のおそれの判断を左右するものではない。

なお、原告は、「HOLLYWOOD POLO CLUB」から本願商標の登録出願の同意を得ていると主張するが、この事実も、本願商標についての出所の混同のおそれの判断を左右するものではない。

(4)  原告は、我が国において、ラルフ・ローレン以外にも、30種類の「POLO」ブランドがあり、これらのための市場が確立されていると主張する。

しかし、「POLO」の語を含む結合商標が他にも多数存在することは当裁判所に顕著ではあるものの、それらがラルフ・ロ―レンによって使用される「POLO」と明確に区別されていることは、本件全証拠によっても認めることができない。

すなわち、前認定のとおり、ラルフ標章が「ポロ」「(POLO」ないし「Polo」)の商標、ラルフ標章の付された商品のブランドが「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)と呼ばれて、著名である事実に照らせば、需要者が、「POLO」の語を含む結合商標について、【F】のデザインに係る商品を示すものであって、それの付された商品を、著名な「ポロ」「(POLO」ないし「Polo」)ブランドないしその兄弟ブランドであるなどと誤解している可能性も十分にあるのである。

のみならず、前認定のとおり、ラルフ標章が「ポロ」「(POLO」ないし「Polo」)の商標、ラルフ標章の付された商品のブランドが「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)と呼ばれて、著名である事実に照らせば、「POLO」の文字を含む商標であってこれと区別して認識されているものが、仮にあるとしても、そのことは、本願商標による商品の出所の混同のおそれの認定を左右するものではない。なぜなら、仮に、他の結合商標が、著名な「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標ないし「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)ブランドと呼ばれるものと区別され、出所を異にするものとして理解されているとすると、そのことは、それが、「POLO」とそれ以外の他の特定の文字とが結合した文字からなるものとしてよく知られ、かつ、何らかの事情によりそれがラルフ・ローレンとは関係のないものとしてよく知られるに至っているか、又は、「POLO(ポロ)」以外の文字の特異性などにより当然にそれが認識される等の特段の事情があることを意味するのであって、そうであるからこそ、区別されているといい得るものである。ところが、本件全証拠によっても、本願商標が「POLO」以外の他の文字と結合した文字からなるものとしてよく知られ、かつ、ラルフ・ローレンとは関係のないものとしてよく知られるに至っているとか、「POLO」以外の文字の特異性などによって当然にそれが認識されるとかというような特段の事情も窺えない。したがって、前記各ブランドの存在によって、本願商標についての前記商品の出所の混同のおそれが減少するものということはできないのである。

また、原告は、ラルフ・ロ―レンないし米国ポロ・ローレン社は、「POLO」の商標権者であるポロ・ビーシーエス株式会社及び「ビバリーヒルズポロクラブ」ブランドとの契約により、共存関係を維持していくことを確認するなどしているから、【F】自身が自己の権利を放棄し、他の「POLO」ブランドの存在は、何ら自己の営業活動に実害がないと表明していることになると主張する。

しかし、原告主張の事実によっても、【F】自身が自己の権利を放棄し、他の「POLO」ブランドの存在は、何ら自己の営業活動に実害がないと表明したということはできない。仮に、ラルフ・ロ―レンないし米国ポロ・ローレン社が、他の会社に「POLO」を含む特定の商標の使用を認める趣旨の契約を結んでいるとしても、これらと何ら契約関係のない原告において、それとは別の商標であって出所の混同のおそれのある本願商標を使用することが許されることになるものではないことは、論ずるまでもないところである。

(5)  原告は、別件判決の判示を本件に当てはめると、本願商標について混同のおそれが生ずることはないと主張する(前記第3の4)。

ア これに関連して、原告は、まず、「HOLLYWOOD」は、映画の都として誰でも知っており、日本でも有名な地区であると主張する。

確かに、米国の都市ハリウッドが映画の都としてよく知られていることは、当裁判所に顕著である。しかし、本件全証拠によっても、我が国において、「HOLLYWOOD」が、ポロ競技に関係のある地域ないし名称として知られていると認めることはできない。

そして、乙第20号証(「田中千代服飾事典」(同文書院1981年4月25日新増補第1刷発行)、第21号証(「新ファッションビジネス基礎用語辞典<増補改訂版>」(株式会社織部企画1995年4月1日発行)によれば、「HOLLYWOOD(ハリウッド)」、は「Hollywood model」(戦後、ハリウッドの映画スターが着て流行した紳士服の型)、「Hollywood cinema style」(ハリウッド映画全盛期に見られた、映画や、映画スターの衣装にインスピレーションを得たファッション)、「Hollywood model pants」(若者向きのカジュアルなズボンの一種)、「Hollywood roll collar」(ロング・ポイント・カラーのなかでも、衿先が鋭く、特に長く垂れ下がったようにみえるもの)という米国の都市ハリウッドに由来するファッション用語があるなど、ファッションに関係の深い地名ないし修飾語であることが認められる。そうすると、「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等のファッション関連商品については、「HOLLYWOOD」の文字は、むしろ、単にファッションの発祥地や商品の生産地を示すものとして認識されやすいものというべきである。

イ また、原告は、本願商標は、その指定商品の取引者・需要者がこれに接した場合、ごく自然に、「HOLLYWOOD」にある「ポロ競技のクラブ」を認識するものであり、「HOLLYWOOD」にある「ラルフ・ローレンに係るポロ製品の愛好者のクラブ」との観念が生ずるとか、「POLO」の部分のみが注目され、直ちにラルフ・ローレンに係る商標が連想されるとはいえず、「POLO」ないし「POLO CLUB」の文字のみが注目されるとかと解することはできないと主張する。

しかし、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあることは、前示のとおりであるから、本願商標から、「HOLLYWOOD」にある「ポロ競技のクラブ」が認識されるとしても、そのことによって、直ちに出所の混同が生じなくなるというものではない。

そして、前記1の(1)認定に係るラルフ・ローレンと関係のある「ポロ」「(POLO」ないし「Polo」)の商標及び「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)ブランドと呼ばれるものの著名性、同(2)認定に係る経験則及び取引の実情を考慮したとき、取引者・需要者は、本願商標の「POLO」の文字部分から、本願商標を、例えば「ポロ」の商標と称し、その結果、【F】又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあることは、前示のとおりである。

本願商標について、冷静かつ厳密に分析し、その意味を正確に理解し、取引に当たろうとする者であるならば、誤りなく「HOLLYWOOD」にある「ポロ競技のクラブ」と認識することになるかもしれない。しかし、簡易迅速を尊ぶ取引の実際、本願商標に係る指定商品の取引の実情における需要者の注意力、「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標及び「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)ブランドと呼ばれるものの著名性(換言すれば、ラルフ・ローレンと関係のある「ポロ」ブランドであることの価値)を考慮すれば、本願商標に係る指定商品の取引の実情においては、本願商標のような冗長な商標について、そのように冷静かつ厳密に分析し、その意味を正確に理解することが普通であって、そのように理解しないことは、本願商標の登録の可否を論ずるうえで無視できる程度にしか生じないであろう、などということはできないのである。

この点に関する原告の主張も、採用することができない。

4  以上のとおりであるから、原告主張の取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

第6よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 阿部正幸)

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